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関節外科(担当:沼本、金高、廣瀬)

関節鏡視下手術

 当院では、主に膝関節に対して鏡視下手術を行っています。以前はスポーツ選手にのみ行われていた前十字靭帯断裂に対しても、現在では関節軟骨・半月板の二次的損傷や変形性膝関節症への進行を予防するために靭帯再建を行うことが一般的となっており、当院でも積極的に鏡視下前十字靭帯再建術を行っています。また、半月板に関しては、若年者を中心としたスポーツ活動を基盤とする半月板損傷や中高年に好発する半月板変性断裂、特に内側半月板後根断裂に対して手術適応があれば積極的に半月板修復術を行っています。その他にも、生まれつき半月板が大きい円板状外側半月板やタナ障害(内側滑膜ひだ)などによる膝のひっかかりを認める場合も、鏡視下手術の適応となることがあります。
 内側半月板後根断裂(medial meniscus posterior root tear, MMPRT)は、50~60歳代の中高年女性に好発し、急激に膝関節機能が悪化する特殊な半月板の断裂です。階段の利用、ハイキング、犬の散歩、段差や溝を飛び越える際の着地など軽微な外傷を受傷機転とするMMPRTは、プチッという音とともに突然膝の裏側に痛みが生じることが多いです(無自覚の場合もあり)。レントゲンのみでは診断ができないため、MRI検査が必須で特徴的なMRI画像所見を見極める必要があります。実際には見逃されることが多く、疑われる場合はすみやかに専門医への受診が必要です。受傷後数日は激痛で歩行困難となっても安静により1週間程度で痛みが軽快しますが、放置すると次第に痛みが再燃し膝の腫脹や夜間の膝痛で困るようになります。その時点で整形外科を受診するケースがありますが、中には膝関節骨壊死(脆弱性骨折)の発症や変形性膝関節症の進行をすでに認めるため、数ヶ月~数年以内に人工膝関節手術を余儀なくされる場合があるため注意が必要です。
 その他、スポーツ障害・外傷でお困りの方がおられましたら、お気軽にご相談ください。

人工関節置換術

 当科では主に、股関節や膝関節疾患に対する人工関節置換術を行っています。
 人工股関節置換術は変形性関節症や特発性骨頭壊死の末期、関節リウマチなどで関節軟骨が消失したものが適応となります。股関節を人工物に置き換えるため、確実な除痛効果が得られ、関節可動域は改善し、歩きやすくなります。QOL(日常生活の質)を高める治療効果の高い手術です。
 人工股関節(THA)はポリエチレンのライナーと金属またはセラミックの骨頭という組み合わせを使うことが多く、このセラミックの骨頭を使ったことで、人工股関節の耐用年数が向上しています。また、平成22年秋よりコンピューター支援ナビゲーション手術を導入し、人工関節の正確な設置が可能となり、術後脱臼リスクの軽減や可動域の改善などが期待でき、早期離床が可能となったことによる術後深部静脈血栓リスクの減少などに寄与しています。

THA術後レントゲン写真
 人工膝関節置換術は、変形性膝関節症や関節リウマチなどにより変形した関節を、金属やセラミック、ポリエチレンなどでできた人工膝関節で入れ替えることで痛みがなくなり、歩行能力がかなり改善されます。
 関節すべてを置換する全置換術(TKA)と片側置換(UKA)の2種類の手術方法があります。当科では関節の破壊が一側のコンパートメントに限局する症例にはUKAを選択し、皮膚切開が10cm程度のMISで施行していますが。関節の破壊が著明な場合にはTKAの適応となります。手術後の膝の屈曲角度は術前の状態に大きく影響されます。また、膝関節置換術においてもナビゲーション手術を行っていますが、令和元年秋からは、最新のナビゲーションシステムの導入を予定しており、さらなる成績向上が期待されます。

TKA(右)とUKA(左)の術後レントゲン写真

骨切り(こつきり)手術

膝の骨切り手術は、人工膝関節置換術と同じように、変形性膝関節症などに対する治療として行われる手術です。最も一般的に行われている骨切り術は、高位脛骨骨切り術(HTO)です。
 膝にかかる負荷は、多くの場合主に膝の内側にかかります。こういったO脚変形を矯正するように骨切り手術を行うと、負荷がひざの外側を中心にかかるようになります。変形性膝関節症の患者さんの多くは膝の内側から軟骨が障害されるため、膝の外側の軟骨があまり痛んでいない患者さんの場合は、人工膝関節置換術を行わなくても骨切り手術での改善が期待出来ます。骨を切って矯正した後には金属プレートとスクリューで固定します。骨切り手術の最大のメリットは、患者さん自身の関節が温存されることです(骨や軟骨、半月板が保持されます)。
 近年、内固定材料の進歩や新しい脛骨近位骨切り術などの開発のお陰で、患者さん一人一人の膝の状態や生活背景に合わせた治療ができる様になってきています。患者さんの膝がHTOに適しているときは大変有効な治療法です。そのような患者さんで手術を希望される患者さんには、人工膝関節置換術と両方の説明を行い、患者さんといっしょに治療方法を決めています。

HTO術後レントゲン写真

関節リウマチの治療

 当院では整形外科でも関節リウマチ患者さんの診療を行っています。近年の抗リウマチ薬の開発などにより、リウマチ治療の状況が大きく変わり、リウマチ治療の原則は抗リウマチ薬による疾患活動性のコントロールとなっています。特に生物学的製剤の効果は驚くべきものであり、現在8種類の生物学的製剤(レミケード、ヒュミラ、シンポニー、シムジア、エンブレル、アクテムラ、ケブザラ、オレンシア)が保険診療で使用可能となっています。生物学的製剤は注射での投与となりますが、JAK阻害剤という経口分子標的治療薬も登場しており、患者さんのニーズに応じた形での治療も範囲が広がってきています。
 抗リウマチ薬の発達に伴い、関節リウマチに対する関節外科手術は減少しているとも言われていますが、患者さんの疾患活動性のコントロールの改善に伴い、様々なニーズは拡大しており、QOLに直結する様な指や足趾などに対する小関節手術はむしろ増加傾向とも言われており、外科的な介入を必要とする関節リウマチ患者は少なくありません。
 手術というと、患者さんも抵抗があると思いますが、まずは薬物治療の変更や装具治療、注射などの保存的治療が優先して選択され、それに対する反応、必要性や希望に応じて手術治療について考慮する場合が大多数ですので、関節リウマチにおける関節症状について、気軽にご相談頂ければと思います。